『素晴らしき国』を読みました。
若い頃はマンガでも小説でも連載ものは毎月がっつり追いかけて読んでいたものでしたが、さすがに年取ってくるとそんなパワーもなく、粛々と単行本に纏まるのを待てるようになりました。十代二十代の頃の私に教えてやりたい。ていうか、あの頃の周りの大人が呆れたような「まぁ好きにすればいいさ」という感じで毎月本屋さんに飛んでいく私を見ていたのって、こういう心境だったからですかねえ……。
そんな風に、のんびりぬるっと生きながら一年一年と年を重ね老いていく私。私たち人間。八十九十まで元気で矍鑠としたおじいちゃんおばあちゃんも増えてますが、まぁそれでもせいぜい百前後まで生きて大往生です。不老不死とはどういうものなのか、不老不死の存在とは何なのか。
人生と、命と、理想と、記憶を考えさせられるようなシリーズが新たに開幕です。
(割とネタばれっておりますので、続きは自己責任でお願いします)
さてさて。
『東京バンドワゴン 零』で江戸時代を舞台にした長編時代小説を発表された小路先生が、「本格時代浪漫」と銘打たれた新シリーズを。今度は戦国時代です。
と言っても冒頭は現代。
二十年まったく変わらない姿で登場した女性の記憶、回想の物語でした。
もちろんフィクションです。
ですが。
今、私達が歴史の授業で習う戦国時代、その当時の流れのことを、完全に史実であるとは言えないまま私達はインプットしていって、後世何か書物でも発見されて歴史の一部が書き換えられながら一日一日と時代は進んでいって。歴史の教科書はその何割かはフィクションじゃないかなと。
私が子供の頃に習った鎌倉時代の始まりは良いくにつくろう鎌倉幕府で1192年でしたけど今は違いますよね。足利尊氏の肖像画と言われていたあの人物画も別人のものでしたよね。聖徳太子も今は「厩戸皇子」としてサラッと書かれているだけなんだそうですね。十人の声をいっぺんに聞くことができたとかいうのは無かったことになってるとか。
後世で習う歴史はいつだって勝者に都合の良いように改竄されていたり根拠が薄かったり。もっと古い時代の、記紀もおそらく、ほとんどが書き換えられているでしょう、それでも私達は歴史書として学ぶ。
じゃあ何のために人は歴史を学ぶのか、西暦何年に何があったとかのトピックスより、その時代その時代を生きていた人達がどんな未来を作りたかったのか、その未来図を物語として読んでいるのかな、と最近思うようになりました。古事記や日本書紀の世界を知りたいなと思うと、芋づる式に偽書と言われるものやトンデモ系のものまでピックアップされてくるので歴史は本当にファンタジーというか浪漫ですよね後世の人間にとっては。その当時の人々は生きるか死ぬかの日々で大変だったことでしょうが。
太古の昔から続くこの国のことを、改竄なくすべての真実を知るのは神様しかいないし、その神様は私達人間に本当の歴史はこうだったよと耳打ちしてくれない。真実をすべて知る必要はないのでしょうね。
不老不死であるふじみ様は、日本が日本である前から存在しているという。
私は最初、ふじみ様は龍神様なのかなと思いました。
龍神、狐神、天狗、といったものは精霊になるそうで、神ではなく神の眷属ということですが、龍神は人間にとってはほぼ神様みたいなものじゃないかなと。
ふじみ様は自分を神様ではないと言う。
ただ不老不死の身体であると。日本が日本という国になる前から、長い長い間変わらない姿で生きていると。
造化三神の後の、神代七代のその後の国産み神産みの頃にあらわれた存在の眷属かなぁとイメージするんですけど、違うかな。
戦国の世に生きた、こうとよしとちょう。他にも才能溢れる子供達。
彼らが作りたかった、〈いよの国〉の人々が、ふじみ様が願った、戦争せずとも誰もが平穏で豊かに暮らせる国。理想郷ですね。
人間に理想郷が作れるのか。子供達の人生の設計図をひく大人達の強い信念は、実はちょっと怖かった。
壮大な計画と分かっていても、出来ないことだとは思わないピュアな思想。(現代日本的な視点で見れば危険な思想なんですよね、民主主義的に、ですけど)
……でもね、やっぱり人間というものは陰と陽で出来ていて、その濃淡が個性でもあり、シリーズ序盤でも何となく不穏な影のうっすらしたものが感じられて、小路先生ほんとうに巧いな!と思った。読者(私)は影を感じ取っているのに、その時代の〈いよの国〉の人々は望む未来を造れると信じている。強い人を、正しい心をもって助ければ良い国づくりができると。
危なっかしいですよね。ハラハラしますよね。はい。
全き光のみの存在を人間とは言わないし、光を持たない闇の存在もまたニンゲンじゃない。人間はもっと生臭くて自分勝手で、でも優しくてあたたかくてパワフル。
シリーズが進めば避けられないこと。戦ううちに心は変わる、生きていれば理想も変わってくる、それが衝突したとき、すれ違ったとき、彼らの人生は後世の私が知る歴史の一ページと重なるのか。
私は、ぴったりと重なるよりは、ちょっとズレてはみ出して何なら暗号でも仕込んでいてほしいなと割と真剣に思いました。
ふじみ様が、こうとよしとちょう達の人生を見送ったのち現代までのさらに何百年間を生きてきて、こうの末裔に出会えたことが、ふじみ様でもコントロールできない時間という宿命の恩寵であるといいな。
歴史の荒波の中、こうとよしとちょうがどう生きたのか、早く続きが読みたいです小路先生!
素敵な時代浪漫シリーズ、楽しみにしてます。
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